『神経美学』芸術と感性の脳・神経科学 -美、悲哀、崇高畏怖‐:石津 智大(関西大学 文学部 心理学専修 教授)
わたしたちの毎日を豊かに彩る感性と芸術。一見、脳科学とは遠くはなれた領域に思えますが、知覚の探求と精神のはたらきにかかわろうと試みている点では、脳科学とおなじ目的を共有し、深い関係性があると言えます。神経美学とは、認知神経科学の新しい一分野であり、脳のはたらきと美的体験(美醜、感動、崇高など)との関係や、認知プロセスや脳機能と芸術的活動(作品の知覚・認知、創造性、価格や価値の変化など)との関係を研究する学際的学問です。認知神経科学と心理学の観点から芸術的活動・創造性と感性的判断の仕組みを学ぶ一方、芸術の技法や感性的判断についての人文学的思索をとおしてわたしたちの認知とこころのはたらき、さらにその背後にある脳機能への理解を深める。このような相補的なはたらきのある分野といえます。
本講義では、美醜などの感性的判断について神経美学の基本的な研究成果を概観したあと、単純な美を超えた複雑な感性体験、すなわち悲哀美や崇高畏怖などの認知・脳機能を紹介します。また、感性と行動との関係や,感性的価値が様々な外部の情報によって変化するプロセスについて考え、これらをとおして神経美学や感性科学の成果を実社会へ還元する視点を提供したいと思います。
講師
石津 智大 先生
関西大学 文学部 心理学専修 教授
日時
2023年7月25日(火)13:00~17:30(12:40より受付開始)第3部 15:40~16:50
※当日の全体スケジュールはこちらをご覧ください。
場所
オンライン(Zoom)
お問い合せ先
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講師紹介
石津 智大(いしづ ともひろ)先生
現職
- 関西大学 文学部 心理学専修 教授
経歴
- 2003年 早稲田大学第一文学部心理学専修卒業
- 2009年 慶應義塾大学社会学研究科心理学専攻博士課程単位取得退学、同年9月博士号受領
- 2009-2016年 ロンドン大学ユニバーシティカレッジ生命科学部 研究員
- 2016-2018年 ウィーン大学心理学部 研究員・客員講師
- 2018-2020年 ロンドン大学ユニバーシティカレッジ生命科学部 上級研究員
- 2020-現在 京都大学オープンイノベーション機構 特任講師
- 2020-2021年 関西大学文学部心理学専修 准教授
- 2022-現在 関西大学文学部心理学専修 教授
研究概要
芸術的活動(作品の知覚、表現技法、価値づけ、芸術的創造性など)と認知プロセスとの関係、感性的な体験(美醜、感動、崇高など)と脳のはたらきとの関係を、実験心理学と認知神経科学の手法により研究しています。また、基礎的な感性科学の実社会への貢献・応用(アートによる高齢者施設のウェルネス改善、臨床応用など)について取り組んでいます。
主な業績
主な論文
- Ishizu, T. (2019), Functional Neuroimaging in Empirical Aesthetics and Neuroaesthetics. In The Oxford Handbook of Empirical Aesthetics.
- Gerger, G., Pelowski, M., & Ishizu, T. (2018). Does priming negative emotions really contribute to more positive aesthetic judgments? A comparative study of emotion priming paradigms using emotional faces versus emotional scenes and multiple negative emotions with fEMG. Emotion.
- Ishizu, T., & Zeki, S. (2017). The experience of beauty derived from sorrow. Human Brain Mapping, 38(8), 4185-4200.
- Ishizu, T., & Zeki, S. (2014). A neurobiological enquiry into the origins of our experience of the sublime and beautiful. Frontiers in human neuroscience, 8, 891.
- Ishizu, T., & Zeki, S. (2014). Varieties of perceptual instability and their neural correlates. NeuroImage, 91, 203-209.
- Ishizu, T., & Zeki, S. (2013). The brain’s specialized systems for aesthetic and perceptual judgment. European Journal of Neuroscience, 37(9), 1413-1420.
- Zeki, S., & Ishizu, T. (2013). The “Visual Shock” of Francis Bacon: an essay in neuroesthetics. Frontiers in human neuroscience, 7, 850.
- Ishizu, T., & Zeki, S. (2011). Toward a brain-based theory of beauty. PloS one, 6(7), e21852.
おもな著作、編著作
- 石津智大 『神経美学 ‐美と芸術の脳科学‐』 (2019年、共立出版)
- Projecting Pentagonism: the aesthetic of Gerard Caris, Ishizu, T., McGown, K., Onians, J., Pooke, G. Sidney Cooper Gallery (2018) (エキシビションカタログ)