ニューロテクノロジーと認知戦の未来:国家・企業による「脳」の制御とELSI:土屋 貴裕(京都外国語大学 共通教育機構 教授)
脳・神経科学技術の急速な発展と、そのデュアルユース(軍民両用)的特性がもたらす新たな認知戦・情報操作戦略の展開について検討する。とりわけ、中国人民解放軍内で台頭する「制脳権」概念、米国で議論される「マインド・ウォーズ」や「ニューロ・ウォーズ」といったフレームを踏まえ、脳・神経科学技術の軍事・安全保障領域への応用動向を整理する。
近年では企業によるマーケティングや世論操作にも脳科学の成果が活用されており、神経経済学(neuroeconomics)、神経マーケティング(neuromarketing)、感情解析などを通じた消費者の認知・感情への介入が、実質的な「認知戦」として機能しつつある。これにより、民間セクターにおいても「制脳」の概念が経済活動や情報戦に接続しつつある点を指摘する。
さらに、こうした脳科学と情報技術の融合が引き起こす倫理的・社会的・法的課題(ELSI)、ならびに今後懸念される「ニューロ・セキュリティ(Neurosecurity)」の確立に向けた論点を提示し、軍・国家・企業が共有する新たな「心の戦場(battlespace of the mind)」の将来像を展望する。
講師
土屋 貴裕 先生
京都外国語大学 共通教育機構 教授
講義:オンデマンド配信
お問い合せ先
本講義に関するご質問等は、「各種お問い合わせフォーム」より、お問い合わせください。
講師紹介
土屋 貴裕(つちや たかひろ)先生

現職
- 京都外国語大学 共通教育機構 教授
経歴
慶應義塾大学SFC研究所上席所員
尚美学園大学総合政策学部非常勤講師
嘉悦大学ビジネス創造学部非常勤講師
防衛省防衛大学校総合安全保障研究科特別研究員
外務省国際情報統括官組織第二情報統括官室専門分析員
在香港日本国総領事館専門調査員
京都先端科学大学経済経営学部経済学科准教授 などを経て現職
研究概要
研究内容:中国の先端科学技術および新興産業に関する産業政策、公共支出と経済成長の関係など
研究分野:経済政策、財政・公共経済、地域研究(中国・東アジア)、国際関係論
主な業績
- 「ニューロ・セキュリティ-『制脳権』と『マインド・ウォーズ』-」単著、2016年3月、『SFC JOURNAL』Vol.15 No.2、慶應義塾大学湘南藤沢学会、340-359頁
- 「脳・神経科学が切り開く新たな戦略領域」道下徳成編著『「技術」が変える戦争と平和』第3章、2018年9月、芙蓉書房出版41-51頁
- 村山裕三編著、鈴木一人、小野純子、中野雅之、土屋貴裕著『米中の経済安全保障戦略:新興技術をめぐる新たな競争』2021年7月、芙蓉書房出版
- 「中国が狙う『制脳権』」外務省『外交』Vol.80、都市出版、2023年7月、28-33頁、ほか多数