データサイエンスにおけるELSI:岸本 充生(大阪大学データビリティフロンティア機構教授・社会技術共創研究センター長)
最初に、新規科学技術の研究開発から社会実装までを「倫理的・法的・社会的課題(ELSI)」という切り口で検討することの意義について考察します。特に、パーソナルデータを利活用する、すなわち、データを取得し、学習済みモデルを作成し、出力結果を利用するに至るプロセス全体を通してどのような倫理的・法的・社会的課題(ELSI)が予想されるかを検討します。
次に、パーソナルデータを利活用した公共政策やデータビジネスの具体的な事例をとりあげて、これまでに実際にどのようなELSIが顕在化し、どのような対応がなされたのかを紹介します。それらの中でも特に日本で活用が進んでいるバイオメトリクス(生体認証技術)に焦点を当て、学校教育現場に適用されるいわゆるEdTechや職場に適用される各種監視技術としてどのような課題があり、どのような対応がなされているかを紹介します。
技術革新のスピードはたいていの場合、法規制の更新の速度を上回ります。そのために、ELSIに対応するためには、L(法規制)を遵守するだけでは不十分であり、E(倫理)を確立し、これを規範としつつ、S(社会)やL(法規制)の側面へ対応するというアプローチが不可欠であることになります。そのためのアプローチとして、手続き、アセスメント手法、体制、人材育成などについて具体的に提案します。
講師
岸本 充生 先生
大阪大学データビリティフロンティア機構教授・社会技術共創研究センター長
日時
2024年07月09日(火)13:00~17:30(12:40より受付開始)第2部 14:20~15:30
⇒アーカイブ配信中。視聴のお申込みは事務局(電子メールアプリが立ち上がります)までお問い合わせください!
場所
オンライン
お問い合せ先
本講義に関するご質問等は、「各種お問い合わせフォーム」より、お問い合わせください。
講師紹介
岸本 充生(きしもと あつお)先生
現職
- 大阪大学データビリティフロンティア機構教授 社会技術共創研究センター長
経歴
- 1998年 京都大学大学院経済学研究科後期博士課程修了
- 1993年 通産省工業技術院資源環境技術総合研究所安全工学部
- 2001年 独立行政法人産業技術総合研究所化学物質リスク管理研究センター
- 2008年 独立行政法人産業技術総合研究所安全科学研究部門 研究グループ長
- 2014年 東京大学 公共政策大学院 & 政策ビジョン研究センター 特任教授
- 2017年 大阪大学データビリティフロンティア機構 ビッグデータ社会技術部門 教授
- 2020年 大阪大学社会技術共創研究センター センター長(兼任)
研究概要
新規技術の研究開発から社会実装を進めるにあたって、現行の法規制、倫理規範、社会受容性との間にギャップ(指針の空白)が生まれ、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)を生み出します。過去を振り返ってみると、ELSIへの対応を誤って様々な新規技術が事故や事件を起こしたり炎上したりしてイノベーションが阻害されてきました。
データビジネスは、研究開発から社会実装までの時間が短いことが特徴です。そのため上記のトラブルが生じるリスクが非常に高くなります。
私の専門分野はリスク学と言っています。もともと、化学物質や食品から事故や自然災害まであらゆるリスクを、リスク評価とリスク管理、そしてリスクガバナンスの観点から研究してきました。近年では研究対象を、新規技術(エマージングテクノロジー)、その中でも特にデータビジネスを取り上げています。
主な業績
最近の論文
- 科学と政策の間のギャップの可視化と橋渡し ―リスク学の知見の貢献 研究 技術 計画 36(2) 116-127 2021年7月
- 新興技術の“レスポンシブルな”社会実装のために 日本機械学会誌 124(1229) 24-29 2021年4月
- エマージングリスクという新知見 ─どう発見し、どう社会に生かすか 学術の動向 25(12) 26-29 2020年12月
- 倫理的・法的・社会的課題(ELSI)という考え方――なぜ今,企業活動において注目されているのか ビジネス法務 21(7) 35-37 2021年7月
- エマージングリスクとしてのCOVID-19―科学と政策の間のギャップを埋めるには― 日本リスク研究学会誌 29(4) 237-242 2020年5月
編著書
- 「リスク学事典」(丸善書店)
- 「汚染とリスクを制御する (シリーズ 環境政策の新地平 第6巻) 」(岩波書店)
- 「基準値のからくり (ブルーバックス) 」(講談社)
- 「環境リスク評価論 」(大阪大学出版)
など