行動を決定する脳のメカニズム:櫻井 武(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 副機構長)
多くの人は、自分の行動のほとんどは、自分の確固たる意志が決めていると信じていると思います。しかし、神経科学の立場から言えば、多くの行動は意識下で選択されており、極端な言い方をすれば、多くの場合において、「後づけ」の理由をみつけて意識や自我が選択していると思い込んでいるにすぎないのです。もちろん、より複雑化していく社会のなかでは、選択に必要な演算の一部は大脳皮質がおこなっているが、大部分の行動は大脳辺縁系や報酬系を中心とした、進化的に古い脳部位によって支配されていると言っても過言ではありません。この講義では、こうした脳深部の部位がどのように働いて私たちの行動を決定しているかについてお話しします。
講師
櫻井 武 先生
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 副機構長
筑波大学 医学医療系 教授
日時
2023年7月25日(火)13:00~17:30(12:40より受付開始)第2部 14:20~15:30
※当日の全体スケジュールはこちらをご覧ください。
場所
オンライン(Zoom)
お問い合せ先
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講師紹介
櫻井 武 (さくらい たけし)先生
現職
- 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 副機構長
- 筑波大学 医学医療系 教授
経歴
1993年 筑波大学大学院医学研究科博士課程卒業
1993年 日本学術振興会特別研究員 研究員
1993年 – 1999年 筑波大学基礎医学系 講師
1999年 – 2004年 筑波大学基礎医学系 助教授
2004年 – 2007年 筑波大学大学院人間総合科学研究科 助教授
2007年 筑波大学大学院人間総合科学研究科 准教授
2008年 – 2016年 金沢大学 医薬保健学総合研究科 教授
2016年 – 現在 筑波大学 医学医療系 教授
研究概要
脳は神経細胞=ニューロンという素子をつかって膨大な情報を処理する装置です。ニューロンは電気信号をつかって情報を伝導し、ニューロンとニューロンの情報のやりとりにはさまざまな生理活性物質が介在しています。情報伝達にはシナプスを介する情報のやりとりと、シナプスを介さないやりとりが存在しますが、その両者ともなんらかの情報伝達物質によって介在されています。私たちは脳内物質のうち、とくに神経ペプチドに興味をもって研究を進めています。私たちは新規のさまざまな作用をもつ神経ペプチドを見出し、それらを詳細に調べることにより、これまでに知られていなかった脳の新しい機能や作動メカニズムの解明することを目指しています。神経ペプチドは進化的に比較的古いシステムで、摂食行動や睡眠、感情などに深く関連しています。これらの機能の解明は学問的な価値をもっていることはもちろんですが、さまざまな疾患の解決にも結びつきます。
主な業績
- Emi Hasegawa, Ai Miyasaka, Katsuyasu Sakurai, Yoan Cherasse, Yulong Li, Takeshi Sakurai. Rapid eye movement sleep is initiated by basolateral amygdala dopamine signaling in mice. Science. 2022 Mar 4;375(6584):994-1000.2022.
- Takahashi TM, Sunagawa GA, Soya S, Abe M, Sakurai K, Ishikawa K, Yanagisawa M, Hama H, Hasegawa E, Miyawaki A, Sakimura K, Takahashi M, Sakurai T. A discrete neuronal circuit induces a hibernation-like state in rodents. Nature. 2020 Jul;583(7814):109-114.2020.
- Sakurai T, et al. Orexins and orexin receptors: A family of hypothalamic neuropeptides and G protein-coupled receptors that regulate feeding behavior. Cell 92:573-585, 1998 (オレキシンの同定に関する原著論文:引用数5976回)
- Sakurai T, Yanagisawa M, Takuwa Y, Miyazaki H, Kimura S, Goto K, Masaki T. Cloning of a cDNA encoding a non-isopetide-selective subtype of the endothelin receptor. Nature 48:732-735, 1990 (大学院生の頃行ったエンドセリン受容体に関する論文:引用数2964回)