脳内表現のデコーディングによる行動の理解:田中 康裕(玉川大学 脳科学研究所 准教授)
私たちは日々、目的を持って行動している。いろいろな状況に応じて、どのように具体的な行動が生み出されるのか、その仕組みにはまだまだ分からないことが多い。しかし、行動が脳により生み出されている以上、脳内の神経活動の中には、個体の行動が表現されているはずである。デコーディングとは、実際に起きた行動と脳の神経活動の統計的な関係を明らかにし、さらに神経活動から行動をどの程度予測できるかによって脳内表現を評価する手法である。また、20世紀末まではせいぜい数個程度のニューロンを同時記録することが主流であったが、21世紀になり、多くの神経細胞を脳の広い範囲から同時記録する技術が急速に発達してきた。その結果、少なくとも動物実験においては、電気的に数百のニューロンの同時記録が一般的となり、時間解像度を犠牲にすれば光学的に数千から数万のニューロンを記録するといった実験が日常的に行われる時代となってきた。デコーディングを用いた行動の生成過程に関する研究を紹介し、さらに、多細胞・多領野の神経活動を得ることで行動の理解がどのように深まっていくのかを議論したい。
講師
田中 康裕 先生
玉川大学 脳科学研究所 准教授
日時
2022年8月10日(水)13:00~17:30(12:40より受付開始)
※田中先生の講義は、15:40~16:50です。
場所
オンライン講義←ハイブリッド開催より変更になりました
お問い合せ先
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講師紹介
田中 康裕(たなか やすひろ)先生
現職
- 玉川大学 脳科学研究所 准教授
経歴
- 2006年京都大学医学部医学科卒業
- 2010年京都大学大学院医学研究科博士課程単位修得退学
- 2012年京都大学博士(医学)
- 2011年より自然科学研究機構基礎生物学研究所・研究員/日本学術振興会特別研究員
- 2016年東京大学医学系研究科・助教を経て
- 2019年より玉川大学脳科学研究所・准教授
所属学会は日本神経科学学会、日本解剖学会、Society for Neuroscience など
研究概要
- 神経回路の挙動に決定的なパラメーターの探索
世の中には交通網から人工神経回路に至るまで、たくさんのネットワークがありますが、その中でも天然の神経回路は非常に複雑であるだけでなく、多機能であるし、その上意識などという定義しづらいものまで実装している特異なネットワークです。そのため、行動などと切り離したとしても、生きている動物で神経回路の物理的な特徴(発火確率や結合荷重など)を調べて、挙動を決定する重要なパラメーターを探索することには、それ自体に意味があると考えています。 - 行動と神経活動の関係
スタンダードなシステム神経科学の方法論の一つですが、行動課題の一側面と神経活動を関連付けることで行動の神経基盤を解明していきます。ネットワークの構造は拘束条件として非常に有力であると考えているため、解剖学の手法を用いて得られる形態学的知見も大切にして進めていきます。我々の研究室では、多くの神経活動を同時に測ることによって知ることのできる全体的なダイナミクスの性質に特に着目して、この問題に取り組んでいきます。
主な業績
- Kuramoto E, Tanaka YR, Hioki H, Goto T, Kaneko T. Local Connections of Pyramidal Neurons to Parvalbumin-Producing Interneurons in Motor-Associated Cortical Areas of Mice. eNeuro. 2022 Jan;9(1):ENEURO.0567-20.2021.
- Oguchi, M., Jiasen, J., Yoshioka, T. W., Tanaka, Y. R., Inoue, K., Takada, M., Kikusui, T., Nomoto, K., & Sakagami, M. Microendoscopic calcium imaging of the primary visual cortex of behaving macaques. Scientific Reports, 2021, 11(1), 17021. https://doi.org/10.1038/s41598-021-96532-z
- Tanaka YH, Tanaka YR, Kondo M, Terada S-I, Kawaguchi Y, Matsuzaki M. Thalamocortical Axonal Activity in Motor Cortex Exhibits Layer-Specific Dynamics during Motor Learning. Neuron. 2018;100(1):244-258.e12. doi:10.1016/j.neuron.2018.08.016 (*同等貢献)
- Masamizu Y, Tanaka YR, Tanaka YH, Hira R, Ohkubo F, Kitamura K, Isomura Y, Okada T, Matsuzaki M. Two distinct layer-specific dynamics of cortical ensembles during learning of a motor task. Nat Neurosci. 2014;17(7):987-994. doi:10.1038/nn.3739 (*同等貢献)
- Tanaka YR, Tanaka YH, Konno M, Fujiyama F, Sonomura T, Okamoto-Furuta K, Kameda H, Hioki H, Furuta T, Nakamura KC, Kaneko T. Local Connections of Excitatory Neurons to Corticothalamic Neurons in the Rat Barrel Cortex. J Neurosci. 2011;31(50):18223-18236. doi:10.1523/JNEUROSCI.3139-11.2011
- Tanaka Y, Furuyashiki T, Momiyama T, Namba H, Mizoguchi A, Mitsumori T, Kayahara T, Shichi H, Kimura K, Matsuoka T, Nawa H, Narumiya S. Prostaglandin E receptor EP1 enhances GABA-mediated inhibition of dopaminergic neurons in the substantia nigra pars compacta and regulates dopamine level in the dorsal striatum. Eur J Neurosci. 2009;30(12):2338-2346. doi:10.1111/j.1460-9568.2009.07021.x
- Tanaka Y, Tanaka Y, Furuta T, Yanagawa Y, Kaneko T. The effects of cutting solutions on the viability of GABAergic interneurons in cerebral cortical slices of adult mice. J Neurosci Methods. 2008;171(1):118-125. doi:10.1016/j.jneumeth.2008.02.021
他13編