過去と未来を結びつける脳内表現を用いた学習行動:酒井 裕(玉川大学 脳科学研究所 教授)
脳は、目や耳などの感覚器から刻々と膨大な情報を取得し、多数の筋肉に出力パターンを送り、身体を制御している。極めて多次元の連続量の時間パターンに関する入出力変換を状況に応じてやってのけている。しかも、遺伝的にプログラムされた入出力変換を繰り返すだけでなく、経験を通じて学習していくことができる。厳密に言えば、一生の間に全く同じ多次元の入出力パターンを経験をすることはあり得ないのに、なぜ初めて出会う入力パターンに過去の経験を生かすことができるのだろうか?おそらく、外界の過去の経緯から未来を予測して適切な出力をするのに、重要な情報だけを抽出した低次元の脳内表現によって、過去と未来を結びつけることができているからだと考えられる。この講義では、連続量を扱う難しさは先延ばしにして、経験をシンボル化(離散化)できた状況を考えても、経験から行動を最適化していく学習は極めて難しい問題であることを動物行動の例を用いて解説する。さらにこの困難を克服するために、どんな枠組みが必要か解説し、そのために必要な要素として、従来から確立している部分観測マルコフ決定過程(POMDP; Partially Observable Markov Decision Process)に加えて、新たに提案する冗長観測マルコフ決定過程(ROMDP; Redundantly Observable Markov Decision Process)の概念を解説し、一般問題が両者の組み合わせ(PROMDP)で定式化できることを示す。
講師
酒井 裕 先生
玉川大学 脳科学研究所 教授
日時
2022年8月10日(水)13:00~17:30(12:40より受付開始)
※酒井先生の講義は、13:00~14:10です。
場所
オンライン講義←ハイブリッド開催より変更になりました
お問い合せ先
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講師紹介
酒井 裕(さかい ゆたか)先生
現職
玉川大学 脳科学研究所 教授
経歴
1995年京都大学理学部卒業
2000年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)。同年埼玉大学工学部・助手。
2004年玉川大学工学部・助教授。2007年玉川大学脳科学研究所・准教授を経て
2013年より玉川大学脳科学研究所・教授。専門は神経計算論。
所属学会は日本神経回路学会、日本神経科学学会など。
研究概要
機械学習が著しく発展している昨今にあっても、脳にはコンピュータこに実現できていない未知の学習機能が潜んでいます。脳をリバースエンジニアリングすることで、動物の脳の素晴らしさを探り、紐解いていくために研究しています。動物の学習行動の計算論から、神経シナプスの学習原理まで、様々なレベルからアプローチしながら、最終的に統一的な理解につながることを目指しています。
主な業績
国際誌原著
- Yutaro Sato, Yutaka Sakai, Satoshi Hirata. Computerized intertemporal choice task in chimpanzees (Pan troglodytes) with/without postreward delay. Journal of comparative psychology (Washington, D.C. : 1983). 2021. 135. 2. 185-195
- Masanori Kawabata, Shogo Soma, Akiko Saiki-Ishikawa, Satoshi Nonomura, Junichi Yoshida, Alain A Ríos, Yutaka Sakai, Yoshikazu Isomura. A spike analysis method for characterizing neurons based on phase locking and scaling to the interval between two behavioral events. Journal of neurophysiology. 2020
- Rios A, Soma S, Yoshida J, Nonomura S, Kawabata M, Sakai Y, Isomura Y. Differential changes in the lateralized activity of identified projection neurons of motor cortex in hemiparkinsonian rats. eNeuro. 2019. 6. 4. ENEURO.0110-19.2019-19.2019
- Shogo Soma, Junichi Yoshida, Shigeki Kato, Yukari Takahashi, Satoshi Nonomura, Yae K. Sugimura, Alain Ríos, Masanori Kawabata, Kazuto Kobayashi, Fusao Kato, et al. Ipsilateral-Dominant Control of Limb Movements in Rodent Posterior Parietal Cortex. The Journal of Neuroscience. 2019. 39. 3. 485-502
- Satoshi Nonomura, Kayo Nishizawa, Yutaka Sakai, Yasuo Kawaguchi, Shigeki Kato, Motokazu Uchigashima, Masahiko Watanabe, Ko Yamanaka, Kazuki Enomoto, Satomi Chiken, et al. Monitoring and Updating of Action Selection for Goal-Directed Behavior through the Striatal Direct and Indirect Pathways. Neuron. 2018. 99. 6. 1302-1314
他34件
著書
- 応用数理ハンドブック
朝倉書店 2013 ISBN:9784254111415