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応用脳科学アカデミー

2022年度

脳とVR ~視知覚の「リアリティ」とは?「手掛かり、文脈」とは?~:番 浩志(NICT未来ICT研究所脳情報通信融合研究センター 脳情報通信融合研究室 主任研究員)

ヒトは、左右眼に投影された2つの2次元の網膜像から3次元構造を再構築し、外界を立体的に知覚しています。この過程は全く意識に上らないため、ごく簡単なことのように思われています。しかし、現在の最高精度の計算機とアルゴリズムをもってしても、2Dの網膜像から3D構造を完全に再現することには困難が伴います。ではヒトは、どのような手掛かりをどのように利用してこの問題を解決しているのでしょうか。最近の3D映像技術やバーチャルリアリティ(VR)技術の発展に伴い、これらの問題を直接調べるための研究環境が整備されつつあります。では、これらの研究は、基礎研究を超えて、ビジネスを加速させる起爆剤となるのでしょうか。本講演では、ヒトの視知覚に関わる基礎的な研究知見を無視せず、ヒトがどのように立体視を実現しているのかを調べたこれまでの研究を紹介しつつ、最新のVR技術が可能にした新しい研究環境と、それらの知見のビジネスへの応用可能性、そしてその(現在の)限界について議論させていただきます。

講師

番 浩志 先生
NICT 未来ICT研究所脳情報通信融合研究センター 脳情報通信融合研究室 主任研究員

日時

2022年12月6日(火)13:00~17:30(12:40より受付開始)
※番先生の講義は、15:40~16:50です。

場所

オンライン講義 ※変更になりました

お問い合せ先

本アカデミーに関するご質問等は、「各種お問い合わせフォーム」より、お問い合わせください。

講師紹介

番 浩志(ばん ひろし)先生

現職

  • NICT 未来ICT研究所脳情報通信融合研究センター 脳情報通信融合研究室 主任研究員
  • 大阪大学大学院 生命機能研究科 招へい准教授

経歴

  • 2003年 京都大学 総合人間学部卒
  • 2008年 京都大学 大学院人間・環境学研究科修了(人間・環境学博士)
  • 2008年-2009年 京都大学 こころの未来研究センター 助教
  • 2009年-2013年 英国 バーミンガム大学 心理学部 脳イメージング教室 博士研究員
  • 2013年-現在 情報通信研究機構 研究員
  • 2014年-現在 大阪大学 大学院生命機能研究科 招へい准教授 兼任
  • 所属学会: Vision Science Society, Society for Neuroscience

研究概要

ヒトの脳機能、とくに視覚の情報処理システムを解明するために、行動実験および脳機能イメージング方法(fMRI; functional magnetic resonance imaging 磁気共鳴映像法など)を用いた研究を展開してきた。私たちが目にする自然風景は、無数の物体が複雑に重なり合って構成されている。よって、ある視対象に目を向けた時、その視対象が単独で目に映ることはまれで、通常は他の物体と渾然一体となって網膜上に投影される。それにも関わらず、ヒトは複雑で不完全な網膜像から豊かな3次元世界を即座に知覚できる。このとき、私たちの視覚系は視対象そのものを単独で処理するのではなく、空間・時間的に近接する周辺の文脈との関係性も踏まえて、全体を統合的に解釈する柔軟な処理を行っている。このヒト視覚系が備える統合のメカニズムは、現行の最新のコンピュータやアルゴリズムを用いても模倣が不可能なほど柔軟性に富み、高精度なものである。よって、ヒト脳内の視覚情報処理機構を解明することは、神経科学の基礎的な理解・発展に貢献するのみならず、マシン・ビジョンの開発を目指す工学やコンピュータサイエンスの応用研究分野にとっても大きな貢献が期待できる重要な研究課題である。現所属では、脳機能イメージング法で得られた脳活動データを解析するための新しい手法の開発にも積極的に取り組んでいる。

主な業績

主な論文

・Armendariz, M., Ban, H., Welchman, A.E., Vanduffel, W. (2019). Areal differences in depth cue integration between monkey and human. PLOS Biology, 17(3): e2006405.
・Chang, D.H.F, Ban, H., Ikegaya, Y., Fujita, I., Troje, N.F. (2018). Cortical and subcortical responses to biological motion. NeuroImage, 174, 87-96.
・Dekker, T., Ban, H., van der Velde, B., Sereno, M.I., Welchman, A.E., Narandini, M., (2015). Late development of cue integration is linked to sensory fusion in cortex. Current Biology, 25(21), 2856–2861.
・Ban, H., Welchman, A.E. (2015). fMRI Analysis-by-Synthesis Reveals a Dorsal Hierarchy That Extracts Surface Slant. Journal of Neuroscience. 35 (27) 9823-9835.
・Ban, H., Preston, T.J., Meeson, A., Welchman, A.E. (2012). The integration of motion and disparity cues to depth in the dorsal visual cortex. Nature Neuroscience, 15(4), 636-643.

主な著書・編著書
  • 「基礎心理学実験法ハンドブック(日本基礎心理学会編)」  朝倉書店 共著
  • 「心理学概論 (京都大学心理学連合編)」 ナカニシヤ出版 共著
  • 「Visual Cortex: New Research」 New York: Nova Science Publisher 共著

             

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