運動に含まれる外界の知覚:羽倉 信宏(情報通信研究機構(NICT) 未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センター 脳情報通信融合研究室 主任研究員)
ドリンクバーで飲み物を選ぶとき、コーヒーのカップに一直線に手を伸ばすこともあれば、色々迷いながら結局コーヒーを選ぶこともある。古典的な考え方では「意思決定のシステム」と「運動システム」は別々のものであり、「コーヒーに手を伸ばす」という同じ運動を実行する限りは、その前にどのような意思決定があったかは関係ない、と考えられてきた。それに反し、本講義では意思決定プロセスと運動システムは相互に干渉しあい、脳は、運動を意思決定とセットで学習していることを示す、一連の研究を紹介する予定である。意思決定は、運動に変換されて初めて、意味を持つ。私たちの研究は、「環境に働きかけることから独立した意思決定は存在しない」、ことを示す例であるともいえる。
講師
羽倉 信宏 先生
情報通信研究機構(NICT) 未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センター 脳情報通信融合研究室 主任研究員
日時
2021年9月22日(水)13:00~17:30(12:40より受付開始)
※羽倉先生の講義は、15:40~16:50です。
場所
オンライン開催
お問い合せ先
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講師紹介
羽倉 信宏(はぐら のぶひろ)先生
現職
- 国立研情報通信研究機構(NICT) 未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センター 脳情報通信融合研究室 主任研究員
経歴
- 2003年 慶應義塾大学文学部卒業
- 2008年 京都大学大学院人間・環境学研究科修了(人間・環境学 博士)
- 2008年-2010年 株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR) 研究員
- 2010年-2015年 Institute of Cognitive Neuroscience、University College London 研究員
- 2015年-現在 国立研究開発法人情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター(CiNet) 研究員
研究概要
ヒトはただ受動的に入力される感覚情報を処理するだけでなく、行為を通して積極的に環境に働きかけることで外界の状態を知覚します。私の研究の目的は行為を作り出すための情報処理がどのように感覚情報の処理を修飾し、私たちの知覚を形成しているのかについて明らかにすることです。同時に、私たちが身体からの情報(体性感覚情報)をどのように処理・知覚しているのかについても、研究を行っています。
主な業績
主な論文
- Hagura N, Haggard P, Diedrichsen J (2017). Seeing the easy option; Action cost biases perceptual decision making. eLife, pii: e18422.
- Hagura N, Barber H, Haggard P. (2013). Food vibrations: Asian spice sets lips trembling. Proceedings of the Royal Society B; Biological Sciences. 280: 20131680.
- Hagura N, Kanai R, Orgs G, Haggard P. (2012). Ready steady slow: action preparation slows the subjective passage of time. Proceedings of the Royal Society B; Biological Sciences. 279: 4399-4406.
- Hagura N, Hirose S, Matsumura M, Naito E. (2012). Am I seeing my hand? Visual appearance and knowledge of controllability both contribute to the visual capture of a person’s own body. Proceedings of the Royal Society B; Biological Sciences. 279: 3476-3481.
主な著書・編著書
- 「日常と非日常からみる心と脳の科学」 (編者:宮崎 真、阿部匡樹、山田祐樹、羽倉信宏、他)コロナ社 2017
- 「Clinical Systems Neuroscience」Springer(2015)(分担執筆)
- 「心理学概論 (京都大学心理学連合編)」ナカニシヤ出版(2011)(分担執筆)
- 「脳から見たリハビリ治療―脳卒中の麻痺を治す新しいリハビリの考え方」講談社ブルーバックス(2005)(分担執筆)