記憶と潜在意識下の脳機能:井ノ口 馨(富山大学 学術研究部 医学系 卓越教授)
本講義では、脳の情報処理のメカニズムをわかりやすく解説すると同時に、記憶がアップデートされて新しい意味を持つ情報を脳に蓄える仕組みについてお話しします。また講義の後半では、「潜在意識下の脳の活動とその機能に関する最新の研究成果(未発表の内容)」をお話しします。
睡眠中やリラックスしているときなどに独創的なアイデアなどが出やすいことは昔から良く知られています。私たちの日常生活の中でも、「未解決の課題や悩みごとを放って置いても、睡眠の後やリラックス中に解決策やアイデアが思い浮かんでくる経験」は誰にでもあるでしょう。それらのことを踏まえると、「潜在意識下の脳の機能」に関する研究のインパクトもご理解頂けるものと思います。
講師
井ノ口 馨 先生
富山大学 学術研究部 医学系 卓越教授
日時
2021年10月26日(火)13:00~17:30(12:40より受付開始)
※井ノ口先生の講義は、13:00~14:10です。
場所
オンライン開催
お問い合せ先
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講師紹介
井ノ口 馨(いのくち かおる)先生
現職
- 国立富山大学 学術研究部 医学系 卓越教授
経歴
- 1979年 名古屋大学農学部農芸化学科卒業
- 1984年 名古屋大学大学院農学研究科博士課程修了、農学博士
- 1985年~1990年 三菱化学生命科学研究所 副主任研究員
- 1991年~1993年 米国コロンビア大学医学部 博士研究員
- 1991年~1993年 Howard Hughes Medical Institute リサーチアソシエート
- 1991年~1993年 ニューヨーク州立精神医学研究所 博士研究員
- 1993年~2009年 三菱化学生命科学研究所 主任研究員、グループディレクター
- 2007年~2019年 科学技術振興機構 略的創造研究推進事業 CREST研究代表者
- 2008年~ 日本不安症学会理事・評議員
- 2009年~2019年 富山大学大学院医学薬学研究部(医学)教授
- 2018年~ 科学研究費 特別推進研究代表者
- 2019年~ 富山大学 学術研究部 医学系 卓越教授
- 2020年~ 富山大学 研究推進機構 アイドリング脳科学研究センター長
研究概要
30年前から記憶の神経科学的基盤を明らかにする研究を行ってきました。ここ10年は、「記憶同士が関連付けられて新しい記憶にアップデートされるメカニズム」を研究の中心に据えてきました。これらの研究をさらに発展させ、2018年からは「潜在意識下の脳機能に関するアイドリング脳研究」を開始しました。脳が持つ潜在的な能力を科学的な根拠に基づいて理解する道筋を付けていきたいと考えています。
主な業績
受賞歴
- 2010年時實利彦記念賞
- 2011年AND Investigator Award
- 2013年文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)
- 2018年東レ科学技術賞
- 2019年高峰記念第一三共賞
- 2019年内藤記念科学振興賞
- 2019年紫綬褒章
英文論文
- Ghandour, K., Ohkawa, N., Fung, C.C.A., Asai, H., Saitoh, Y., Takekawa, T., Okubo-Suzuki, R., Soya, S., Nishizono, H., Matsuo, M., Osanai, M., Sato, M., Ohkura, M., Nakai, J., Hayashi, Y., Sakurai, T., Kitamura, T., Fukai, T., and Inokuchi, K. Orchestrated ensemble activities constitute a hippocampal memory engram. Nature Communications, 10: 2637 (2019).
- Abdou K, Shehata M, Choko K, Nishizono H, Matsuo M, Muramatsu S, and Inokuchi K. Synapse-specific Representation of the Identity of Overlapping Memory Engrams. Science, 360, 1227-1231 (2018). doi:10.1126/science.aat3810
- Yokose J, Okubo-Suzuki R, Nomoto M, Ohkawa N, Nishizono H, Suzuki A, Matsuo M, Tsujimura S, Takahashi Y, Nagase M, Watabe AM, Sasahara M, Kato F, and Inokuchi K. (2017) Overlapping memory trace indispensable for linking, but not recalling, individual memories. Science, 355: 398-403. doi:10.1126/science.aal2690
- Nomoto M., Ohkawa N., Nishizono H., Yokose J., Suzuki A., Matsuo M., Tsujimura S., Takahashi Y., Nagase M., Watabe A.M., Kato F., and Inokuchi K. (2016) Cellular tagging as a neural network mechanism for behavioral tagging. Nature Communications, 7: 12319. doi:10.1038/ncomms12319
- Ohkawa N., Saitoh Y., Suzuki A., Tsujimura S., Murayama E., Kosugi S., Nishizono H., Matsuo M., Takahashi Y., Nagase M., Sugimura Y.K., Watabe A.M., Kato F., and Inokuchi K. (2015) Artificial Association of Pre-stored Information to Generate a Qualitatively New Memory. Cell Reports, 11, 261-269 (2015). DOI: 10.1371/journal.pbio.10020701.
- Kitamura T, Saitoh Y, Takashima N, Murayama A, Niibori Y, Ageta H, Sekiguchi M, Sugiyama H and Inokuchi K. Adult neurogenesis modulates the hippocampus-dependent period of associative memory. Cell, 139; 814-827 (2009)
- Okada D, Ozawa F and Inokuchi K. Input-specific spine entry of soma-derived Vesl-1S protein conforms to synaptic tagging. Science, 324; 904-909 (2009)
日本語著作他
- 井ノ口馨:記憶をつくり変える. 日経サイエンス 11月号. 28-37, (2017)
- 井ノ口馨:記憶をあやつる. 角川選書、 KADOKAWA (2015)
- 井ノ口馨:記憶をコントロールする-分子脳科学の挑戦-,岩波科学ライブラリー,岩波書店,(2013)
- 井ノ口馨(監修)、細胞工学(秀潤社)2011年5月号特集:記憶を分子・細胞の言葉で理解する,vol.30 (2011)